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最近のフィンランドは、日本にも多くの著名な指揮者や作曲家や演奏家が仕事で訪れているのを見てもわかる通り、音楽立国といっても過言ではないような目覚ましい活動を行っている国である。その中で「Avanti! サマー・サウンド・フェスティバル(以下、Avanti!フェスティバル)」は、有能な音楽家たちを抱えながら運営されており、今年で28年目を迎えた今、フィンランドでもっとも注目されている国際的音楽祭のひとつと言ってもよいだろう。Avanti!フェスティバルはヘルシンキから東へ約50キロに位置するポルヴォーという由緒ある町を拠点としているが、近年のフィンランドでは活況を呈する音楽状況を反映して、いろいろな場所を現代音楽の拠点にした音楽祭が林立して開かれている。私を2010年のAvanti!フェスティバルに招聘してくれた折、ディレクターを務めたセッポ・キマネン氏が、このような状況を日本の音楽状況と比較して、面白い見解を述べていた。
彼は人口五百数十万人のフィンランドでの音楽の社会への普及率や浸透度になぞらえるならば、1億2千万の人口を有す日本には、700のプロのオーケストラがあってもおかしくない筈であると言う。
この場合のオーケストラとは、西欧のクラシックや、近現代の音楽を演奏するものを指すわけであるが、日本は人口の割には、音楽の社会的密度がフィンランドと比較すると、かなり薄いということなのだろう。もちろん日本には西欧音楽の他に、長い年月の間に培われた多様な種類の伝統音楽なども存在することを考えると、簡単には同一視できない点もあるが、こと西欧音楽について言えば、国の文化予算の差にも見られるように、音楽に関心をもってかかわろうとする人の層が薄いことが気になったとしても不思議ではない。
そしてこれはAvanti!フェスティバルだけのことではないが、多くのコンサートで、現代のフィンランドの作曲家の作品が取り上げられ、演奏されていることを考えると、現代の音楽への偏見が払拭され、一般の人たちの間にも、作曲家の名前が広く知られてゆき渡ってきていることがある。その点では、音楽家と一般の人たちの距離がきわめて近く、ぼるヴォーの会場周辺ではつねに人との密接な交流が行われていたのが印象的であった。
これらはまた、世界のトップをゆく教育水準の高さや世界で一、二を争う女性の社会進出度や、人々の将来を保証する確固たるヴィジョンをもった透明な政治経済の裏付けなどと、深くかかわった問題だと言えるだろう。
昨年の夏、私はもうひとつの別の夏のフェスティバル、スウェーデンとの国境に近い「コールショルム音楽祭」に招待されたが、ここでも凝縮された密度の濃い内容が、的確な運営のもとに披露されていた。音楽立国は、今着実に将来への展望を開きつつあると言えるだろう。(2013年Avanti!室内アンサンブル公演プログラムより)
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