Essay



音楽のひとりごと


永井 由里

池辺晋一郎 作曲 無伴奏ヴァイオリンソナタ
最初の音を弾いた時に
もう、自分自身であった。
チューリッヒのトンハーレザールでのゲストリサイタル。
客席の反応も私がこの曲と一体になっているのをすぐに感じとったようだ。


ものすごく練習してあったベートーヴェン!
彼らにとっては全く異質なバックグランドの東洋人の演奏なのかもしれない。
ベートーヴェン、空気までもベートーヴェン!
その事をおじいさんの時代から受け継いで体験している。
まさに伝授していく。
偉大なものは伝授されてきている。
意思を持って伝授していくのだ。
回りの人がことごとく示して、
いちいち植え付けていく。
今はもう、西洋人からみた自分の異質さを開き直って、表現できるかしら。
もうすでにとっくの昔から偉大なる自分達のおじいさんの
偉大なるベートーヴェンを聴いてきて受け継いできたその誇りを、
東洋人の私はこれもベートーヴェン!と持っていけるかしら。
いや、今の時代は そうではない。
この今の場所でこれこそ!これが!これもベートーヴェン!と提示していくのだ!!ほとんど無謀な事と思えた昨日までをかなぐりすてるのだ!

人間の偉大さの闘いそのものを音楽にして受け継いできたその誇りの高さを、
それも あの人もこの人も自分の回りをちょっと見回しただけで、
これ以上ないほどの誇り高き人々。
そのものすごさを今、
私は日本でこの場所で音楽をする上で音楽そのもので提示していかなくては!

ロンドンでは何年も続いていたJAPAN MUSIC POOL( Takako Selby-Okamoto ソプラノ、 Keiko Tokunaga ピアノ)という日本人の作曲家の曲を弾くグループにおいて
一柳慧 シーンズⅠ をSouth Bank にてロンドン初演。
密度の濃さ、頭の緻密さ、やはり、自分に無理がない。
意識して日本人の曲を発信していた透明なる音楽造り。
なぜ、外国の曲ばかり弾くのだ?
なぜ、自分の国の曲を弾かないのか?
あらゆる なぜ?を 投げかけてくる日常出会う人々に対する
答えを自分の国の曲を弾く事で発信していかなくてはならない。
人種の違いを音楽で闘う、なぜ?闘う?
歩んできた 持ち歩き積み重ねてきた目に見えぬ持ち物、
互いに到底 理解不可能!たどり着く先は音楽で発信!
大陸での究極の生き方がそこにある。
楽器を持つのだ!
長い長い先に垣間見えるかもしれない〜愛〜や〜許し〜に人間が身をもってたどりつくまでにたどるながい道のりを今日も音楽で歩く。
大陸で出会ったそこらじゅうの
一人一人の生き方から、
学んだ生き方なのだ。
音楽!戦争の代わりなのだ!
それぞれ、生きのびる方法!
音楽!
それは
愛と感謝!の究極の叫びなのだ!


永井由里 Violin  
上野学園高校音楽科桐朋学園大学音楽科卒。桐朋学園音楽賞受賞。
江藤俊哉、鷲見三郎、宗倫安、新井覚、ヨーゼフ・フックス、ナタン・ミルシュテインの各氏に師事。
日本学生音楽コンクール小学校の部全国一位、日本音楽コンクール入賞、安宅賞受賞。読売新聞社主催新人演奏会出演。ニューヨークのジュリアード音楽院首席卒業の際、ローブス・ロブ賞受賞。
欧米の主要コンサートホールにてリサイタルやコンサートに客演。
New York Times、Neue Zürcher Zeitung、Wiener Zeitung等で、またZürich Zee Zeitungで「爆発的ヴァーチュオーソ」と絶賛される。NHK・FMリサイタル、スイスラジオDRSリサイタル、ニューヨークラジオWQXR(リスニング・ルーム等)、スイスTV・DRS等に出演。
1997年よりコンサーツ・イン・喜多見(後援国本学園)及び2002年より由里PASSIONミュージックのコンサート(2002年2003年2007年東京文化会館、2005年2006年相島芸術文化村2010年新潟県高田町浄興寺 等)を毎年開催。  



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