日本フィンランド新音楽協会1周年記念コンサート・講演会 報告


2012年2月27日

協会発足の1周年を記念し、今年もヤリ・グスタフソン駐日フィンランド大使ご夫妻並びに大使館のご協力を頂き、コンサートに加え、講演会を開催することとなった。司会進行は報道・文化担当参事官のミッコ・コイヴマー氏。

<講演会「フィンランド現代音楽の現状」: 18:00~19:00>

講師:トミ・ライサネン氏 Tomi Räisänen
先ずフィンランドの作曲家トミ・ライサネン氏による講演会が行われた。
ライサネン氏はフィンランド、ヘルシンキ出身。ヘルシンキ大学で音楽学、シベリウス・アカデミーで作曲を学ばれ、2002年にイタリアの国際作曲コンクール"2 Agosto"にて2位入賞、2007年には入野賞を受賞。2011年にはトーキョーワンダーサイト、レジデンスコンポーザーとして来日。

フィンランドは「現代音楽のための約束された地」と言われてきたが、その音楽を取り巻く状況を3つの観点から説明された。

1. 音楽教育
フィンランドでは全ての教育機関において無料、もしくは非常に少ない授業料ですべての人が平等に教育を受けることができる。音楽基礎教育に携わる音楽学校は100校ほど、専門教育を中心とする学校はコンセルバトリー、University of Applied Sciences(以前はポリテクニックと呼ばれた)、そして北欧諸国で最大の音楽大学シベリウスアカデミーが存在する。現代音楽の比重は学校によって異なるが、現代音楽を中心とするワークショップも盛んである。

2. 組織
1. Korvat auki - Ears Open Society「耳を開け」協会
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1977年にカイヤ・サーリアホ、マグヌス・リンドベルイ、エサ・ペッカ・サロネン、ヨウニ・カイパイネン、オッリ・コルテカンガス、ユッカ・ティエンスー、エーロ・ハメーンニエミといった若手の作曲家により創設。作曲家にとって作品を発表する場が非常に大切であり、この組織によって若い作曲家が活動の場を拡げることを目的としている。(日本には同様な団体は無いようである)
1977年にカイヤ・サーリアホ、マグヌス・リンドベルイ、エサ・ペッカ・サロネン、ヨウニ・カイパイネン、オッリ・コルテカンガス、ユッカ・ティエンスー、エーロ・ハメーンニエミといった若手の作曲家により創設。作曲家にとって作品を発表する場が非常に大切であり、この組織によって若い作曲家が活動の場を拡げることを目的としている。(日本には同様な団体は無いようである)
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2. Suomen Säveltäjät - Society of Finnish Composersフィンランド作曲家協会
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186人のメンバー(2012年2月現在)に加えて、協会に属さない作曲家もいることを考えると、500万人ほどのフィンランド人口と比較すると、作曲家がいかに多いかがわかる。

3. TEOSTO フィンランド作曲家著作権協会
1928年設立
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4. FIMIC - Finnish Music Information Centre フィンランド音楽情報センター
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かつては印税もなく、楽譜を無料で提供する「完璧な」出版社とされたが、数年前テオストと別れ、予算が削減されたことで、以前ほど状況は良好ではなくなった。現在Musex(Music Export Finland)と統合。

5. 他の主なフィンランドの楽譜出版社
Fennics Gehrman(フェニックス ゲルマン)社
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Sulasol (The Finnish Amateur Musicians Associations)
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6. Finnish Japanese Contemporary Music Societyフィンランド・日本現代音楽協会
2012年2月22日、本協会の姉妹協会にあたる組織がセッポ・キマネン、ユハ・T・コスキネン、トミ・ライサネン、ラッセ・レヘトネンにより創設。

3. 音楽祭、オーケストラ、アンサンブル

音楽祭

フィンランドには現代音楽を中心とするフェスティバルが3つあり、その他にも様々な規模の音楽祭が行われている。

1. Musiikin Aika - Time of Music 音楽の時
1981年ユッカ・ティエンスーにより創設。フィンランド中部の町ヴィータサーリにて毎年7月に開催。

2. Musica Nova Helsinki ムジカ・ノーヴァ・ヘルシンキ
1981年創設。以前ヘルシンキ・ビエンナーレと呼ばれていたもので、現在フィンランドで一番大きな現代音楽フェスティバル。隔年2月から3月にかけて開催。

3. Tampere biennare タンペレ・ビエンナーレ
1986年創設。

4. Kuhmo Chamber Music Festival クフモ室内楽音楽祭
セッポ・キマネン、新井淑子夫妻により1970年創設。現在の音楽監督はウラディーミル・メンデルスゾーン。プログラムは現代音楽のみではないが、フィンランドにおける世界的規模の音楽祭。

オーケストラ

フィンランドオーケストラ協会には、30ほどのプロオーケストラが所属。
このこともまた、フィンランドの少ない人口を考えると比率が大きいといえる。
(例)フィンランド放送交響楽団(RSO)
フィンランド放送局により創設。年に3~5つの委嘱作品を含むプログラムは現代音楽を比較的多く取り入れている。

個々の演奏家とアンサンブル

多くの個々の演奏家たちが作曲家に新しい作品を委嘱している。(特にアコーディオン、ギター、リコーダー、カンテレ)また、現代音楽を中心に活動しているアンサンブルも数多い。(Uusinta, Zagros, Defun Ensembleなど)

(例)Avanti! Chamber Orchestraアヴァンティ室内管弦楽団
1983年エサ・ペッカ・サロネン、ユッカ・ペッカ・サラステにより創設。
室内楽を中心とした現代音楽をプログラムとし、近年は幅広く多目的なプログラムを組んでいる。
2010年アヴァンティ室内管弦楽団によるサマーサウンドフェスティバルでは、作曲家一柳慧氏をフォーカスした。

最後に、作曲家の経済的状況について、フルタイム、フリーランスの作曲家はフィンランド国内において20人あまりという現状にも触れた。作曲に多くの時間が費やされる作曲家にとって経済的支援は重要である。
教育の段階ですべての才能のある人に平等の可能性を与えられるフィンランドの土壌からは、職業としての"本当の"作曲家が生まれるといえるだろう。


コンサート: 19:20~20:30

始めに駐日フィンランド大使ヤリ・グスタフソン氏よりスピーチを頂いた。ご自身の出身地であるポルヴォー市で行われるサマーサウンドフェスティバルでは、2010年に一柳慧理事長、野平一郎氏が招聘されたことにも触れられた。

今年は日本・フィンランドからそれぞれ3名、計6名の作曲家の作品が演奏された。

プログラム最初は現在22歳の作曲家シピラによる「東日本大震災・津波の犠牲者のためのメモリアム」(トランペット:山内博史、ピアノ:福士恭子、以下敬称略)。原曲は日本人の名前がつけられた他の4曲と併せて5曲で構成されている。


2曲目は一柳慧「レゾナント・スペース クラリネットとピアノのための」。(クラリネット:佐藤和歌子、ピアノ:一柳慧)響きの空間という名の通り、ピアノとクラリネットが紡ぎ出す色合い、「音」と「間」が交互に響きあう美しさ。作曲家ご自身による演奏を聴く機会ともなった。


3曲目はライサネン「Midsommar(so)natten 夏至の夜(夏至ソナタ)」(日本初演)(ヴァイオリン:中澤沙央里、チェロ:鈴木皓矢)。ソナタ形式で構成され、"so"を抜くとスウェーデン語のnatten(夜)という言葉が表れる。ヴァイオリニストとチェリストの足にトライアングルの撥をテープで固定し、ぶら下げられたトライアングルをまるで時計の秒針のように鳴らす。その合間にもそれぞれの楽器の他に、タムタムも演奏し、言葉を発し、歌も歌うという、視覚的にも非常に興味深い曲であった。


4曲目は北爪道夫「ペア・ワーク フルートとピアノのための」(フルート:齋藤和志、ピアノ:野平一郎)。1996年、全音主催の第3回「四人組とその仲間たち」のコンサートのための作品。1990年代後半、量的な音響から線的な楽器法へ作風が移行したころの代表作である。フルートとピアノの見事な掛け合いに最後まで引き込まれた。


5曲目は間宮芳生「チェロとピアノのための5つのフィンランド民謡」(チェロ:鈴木皓矢、ピアノ:阿波祐子)。1977年の作品。第1曲『 馬』(美しい白いたてがみの馬が馬車を曳いていく)、第2曲 『泣きうた』(結婚式で花嫁の母のかわりに謡われる"泣き歌"が素材)、第3曲『家なきこじき』("おれは家のないこじきだ、来月になれば何かいいことが起こるさ")、第4曲『ミッキン・ペッコ』(ミッキという男が持っているベッコという名の馬)、以上がスオミ族の古謡によるもので、最後の第5曲『ヨーイク』はスカンジナビア諸国の先住民族であるサーミ族の民謡が素材となっている。素朴な民謡が色彩豊かに姿を変え、生き生きと表現され、とても魅力的であった。


6曲目はリンドベルイ「トゥワイン」(ピアノ:野平一郎)。
リンドベルイは1977年「耳を開け」協会結成メンバーのひとり。2003年シベリウス賞受賞。
野平氏とリンドベルイ氏は80年代にフランスのIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)に同時期に滞在、このピアノ曲「トゥワイン」はその頃の作品とのこと。緊迫感のあるリズムと音が飛び交う様に魅了された。


私自身、この1年を通して様々な活動をされている方々との触れあいの中で、音楽が社会現象を反映し、問題意識を提起させるものであること、また、音を発することは言葉を発するのと同様に、時にはそれ以上のメッセージを伝える媒体であると強く実感するようになった。
今後も協会の活動を通して、様々な表現の可能性を求めていければと考えている。

福士 恭子(事務局長)




日本・フィンランド新音楽協会 オープニングコンサート


2011年1月18日

日本・フィンランド新音楽協会のオープニングコンサートが2011年1月18日、フィンランド大使館にて開催されました。
今回の発足にあたり、フィンランド大使ご夫妻を始め、大使館の皆様のご協力を得て、実現の運びとなりました。

フィンランド大使館文化参事官ミッコ・コイヴマー氏の司会により、
ヤリ・グスタフソン フィンランド大使によるオープニング・スピーチで幕が開けられました。


一柳慧理事長が協会発足の挨拶を述べ、フィンランドの作曲家ラウタヴァーラから届いた祝辞も紹介されました。


プログラム最初は、フィンランドの作曲家ノルドグレン(1944-2008)「小泉八雲の怪談によるバラード」より「雪女」(ピアノ: 福士恭子)。
(以下、敬称略)日本での留学経験もあるノルドグレンによって生み出される神秘と、不可思議な世界が映し出される曲です。


プログラム2番目はラウタヴァーラ(1928-)「Con spirito di Kuhmo for violin and cello」(バイオリン:新井淑子、チェロ:セッポ・キマネン)。
この曲はフィンランドのクフモ音楽祭を創設したキマネン氏の50歳の誕生日に捧げられています。
次に演奏されたのは、本会発足のために作曲された一柳慧(1933-)「Duo Interchange for violin and cello」。
今回のオープニングコンサートが世界初演となりました。ともに演奏家を熟知した作曲家による作品を、捧げられた演奏家から直接伺える貴重なひとときとなりました。


3番目には、現在フィンランドラハティ市ラハティ交響楽団のコンポーザー・イン・レジデンスであるカレビ・アホ(1949-)のトリオ。
フルート、チェロ、ピアノのための「5つのバガテル」より2番目を除く4曲、Appasionato、Prestissimo、Grave、Danza(Molto allegro)が演奏されました(フルート:上原由李、チェロ:セッポ・キマネン、ピアノ:福士恭子)。
このトリオは2001年ユヴェナリア室内楽コンクール(フィンランド、エスポ-市)の課題となった作品で、2000年に作曲されています。


4番目に、正倉院復元楽器である箜篌(くご)による一柳慧「時の佇いII (箜篌:佐々木冬彦)。
失われた東洋の音色が、悠久の時を超えて美しく会場に響きました。


5番目は、ドホナーニ (1878-1951)「左手のためのエチュード 、パルムグレン (1878-1951)「Intermezzo for the Left hand」、カッチーニ-吉松 隆 (1953-)「アヴェ・マリア (ピアノ:舘野泉)。
43年間フィンランドと日本の橋渡しに努めてこられた舘野氏の叙情豊かな響きが紡ぎ出されました。


そしてプログラム最後は池辺晋一郎 (1943-)「ストラータVIII 」(2010)(バイオリン:亀井庸州、チェロ:多井智紀)。
技巧的且つ集中度の高い演奏に会場全体が引き込まれ、興奮のうちに幕を閉じました。
コンサート終了後は大使館主催によるレセプションが催され、当日の来場者が交流を深める場となりました。