AVANTI! と三味線との出会い

平井 京子

10月6日 トーキョーワンダーサイト主催、トーキョー・エクスペリメンタル・フェスティバル vol.8 〜Listen To The Now~オープニングコンサート 一柳慧プロデュース「現在を生きる音楽家との対話~日本とフィンランドの懸け橋~」(東京ウィメンズプラザ)において、拙作「欠けた月」を初演して頂きました。フィンランドのAVNTI! の芸術監督でもあるカリ・クリーックさんのクラリネットと、メンバーの一人であるミッコ・イヴァルスさんのチェロ、そして日本から三味線の本條秀慈郎さんという、自分で作曲しておいて言うのも何ですが、見たこともない西洋楽器と日本楽器との混合トリオです。三味線という楽器は箏と比べると新作の数も少ないのですが、私は大きな可能性を秘めた楽器だと思っていました。三味線の調子(開放絃)をとても変わった音(通常の三絃の曲ではおこなわない調子。ヒライ調子とのちに本條さんが命名。)に設定したこともあり、一体どういう風に鳴るのかは未知数で、さらに初演演奏者に海外のかたという経験も始めてでした。
 
その前々日、神奈川県民小ホールでのリハーサルに伺いました。私がリハ開始時間前に客席に到着すると、既にミッコさんは一人で舞台上で黙々と部分練習をしていらっしゃいました。カリさんはリードを楽器に付けながら「いい曲だね」とおっしゃって下さいました。リハが始まったとたんあまりに表情のある音が飛び交うことに驚きました。大概リハーサル初日とは (ひどい場合は本番も)通して最後まで行けば良いというのが私が今まで経験した現代新作アンサンブルの合わせでしたので。このレベルだったらもっといろいろな事が書けるなぁとつくづく思いました。フィンランドのお二人は決して強く主張したりはなさらず、辛抱強くこちらの言葉を待ってくれました。しかし音は本当に生き生きとして音楽に深い共感を得て頂き、丁寧で工夫のあるリハーサルをして下さいました。特にその日2回目の通しはホールの響きもぴったりで素晴らしく、バランスの良い融合と掛け合いとが圧巻で、「欠けた月」というよりはパーフェクトムーンでした。終わってからは嬉しくなって本條くんと通訳のカインさんと3人で東横線ではしゃぎながら帰宅しました。音楽家としての大きな幸せを感じました。

この文章を書くに当たって、一柳先生から日本での作曲家の現状も書いて下さいとのことでしたので私の知っている僅かな経験などをここから少し愚痴らせて下さい。
今回の演奏会ではおそらく一柳先生の存在ゆえに、演奏家と作曲家とが対等の関係であるという事が当たり前に感じられました。が、有名作曲家周辺をのぞき、現代日本では演奏家の時代だと思います。新作を出す作曲家はどんどん隅の方へ追いやられているような気が致します。
確かに現代邦人作品に対して理解のある邦人演奏家は沢山いますが、一方で私には演奏家から或いは主催者からのひどい経験が山のようにあります。数年前に四国での公共の会館での演奏会で拙作の小品がプログラムされていたのですが、主催側から聞いたことの無い日本人の女性作曲家の作品を入れるなと言われて演奏されなかったことがあります。また、せっかくの新しい譜面を紛失するだらしない演奏家にはもう何人も出会いました。こういう人に演奏して貰わなければ自分の曲が音にならないのかと思うと情けなくて演奏がたとえ良くてもがっかりします。どうやったら日本人としての作曲家の思いがまず、同じ日本人に伝わるのかと悩みます。現代日本に新しい音楽は必要ないのかと問いたいです。

また、優れた作品に対しての完備された公的なサポートによるインターネットなどでの譜面出版の道を与えられないと、日本の作曲家の作品や先人の遺産はどんどん消えて行くと思います。一定量の作品は常に保管されるべきで、演奏家や音楽を勉強する人にはそれを開かれた形で提供出来る設備が必要です。例えば日本音楽コンクールピアノ部門では課題曲に邦人作品を数年前までとり入れていたのですが、日本音楽コンクールという名前にもかかわらず最近では邦人作品の課題曲は規定としてはありません。これは楽譜が手に入りにくく練習がしにくい、そのためコンテスタントが比較的同じ楽曲になってしまうということも理由の1つではないかと思うのです。こういったコンクールで演奏者が現代作品を弾くことにより、新しい音楽への理解と共感、その結果プログラムが単一なものばかりになる傾向は改善されるとも思うのですが。今回のプレトークでフィンランドのお話を聞いていて一番うらやましく思ったことはこの譜面に出来るシステムが国によって支えられているということです。

そんなこんな現状ですが、私はこれからも力強くどっこい日本から音楽を発信するつもりです。
さて、話を元に戻します。
 
6日本番は音響には限界がありましたが、その中で最前を尽くすとても冴えわたった楽しげな演奏で、自分が作曲した曲ということよりも、彼らの3つの楽器にだんだんと引き込まれて最後はなにか音楽が1つのものに成り立っていく、そこを見届けたような不思議な感覚がありました。
 
終演後はあれだけ静かだったミッコさんが顔色こそ変えませんがいきなり凄い速さの英語を話し出し賞賛して下さり、私は聞き取るのに必死でした。カリさんには感想を聞かれました。私は「三人の音の中にとても美しい月を見ました」と申し上げましたら静かに頷いて下さいました。音楽を奏でる人の、人格の豊かさを間近で感じられた素晴らしい経験でした。また多くの方々から終演後にご感想も頂戴し、思いの外の反響に驚きました。
拙作を選んで下さった一柳慧先生とAVANTIの方々、本條さん、トーキョーワンダーサイトのスタッフ、お聴き下さったみなさまに心から感謝申し上げます。

平井 京子 Kyoko Hirai
1980年東京藝術大学音楽学部作曲家卒業。ピアノ曲、器楽独奏曲、器楽アンサンブル、歌曲、宗教曲、管弦楽曲、邦楽器を用いた作品など多岐に渡り、
幅広い年齢層の演奏家からそのリサイタルプログラムの為に委嘱されている。2002年自作品のみのプログラムによる「平井京子 個展1」を開催。2004年2回目の個展を開催。2009年「平井京子 個展3」では和楽器と洋楽器とを使い若手演奏会を起用した~和と洋と、未来をつなぐ~を開催。この公演は音楽の友誌特集コンサートベストテン2009~36人の音楽評論家・記者が選ぶ2009年のベストテンコンサートとして推される。2012年、慰霊のための高野山においての演奏会で、即興的な委嘱作品「声明と3本のフルートのために」初演。スイス各地での再演が2014年予定。2013年10月一柳慧プロデュースフィンランドの世界的現代曲演奏家集団AVANTIメンバーと三味線の作品が初演される。2013年11月「平井京子 個展5~イストワール~」開催。
日本作曲家協議会会員。「環」会員。日本・フィンランド新音楽協会会員。2000~2011年桐朋学園芸術短期大学講師。現在 埼玉大学講師。

kyokohirai.com

2014

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