ジャパンウィーク2015 私の公演リポート

前川朋子

公益財団法人 国際親善協会が一年に一度、ヨーロッパの都市で開催する文化イベント「ジャパンウィーク」が、10月21日から26日まで、ヘルシンキで開催されました。ジャパンウィークは今回が40回目、毎年ヨーロッパの各都市で開かれてきましたが、北欧での開催は今回が初めてとのことです。参加団体数が68団体、参加者の合計は約1000人という規模でした。
私は、昨年春にフィンランドにてコンサートを3箇所でさせていただきましたが、今年はシベリウス生誕150年という記念の年でもあり、日本でフィンランドの歌曲を歌う歌手として、ぜひ本場の方にお聴きいただく機会を再度持ちたいと思い、日芬交流の一端として参加いたしました。
ジャパンウィークには、日本全国からツアーで参加する方も多くありましたが、私は個人で参加、10月22日に現地入り、ヘルシンキに到着した際は、空港を出た途端、早速冷たい風雨に見舞われました。夜、港の近くを通ると、海から直接吹き付ける寒風に、傘もさせぬ程でした。初日は心細い思いでしたが、その後の滞在では天気も持ち直し、秋の青空に真黄色に映える美しい紅葉を、街中の公園や、沖に浮かぶ島々に見ることができました。それはまるで絵本にあるような、心休まる色彩でした。

このジャパンウィークは大きく3つの部門に分かれます。市街にあるアナンタロという建物を会場とし、茶道の実演や、書道の体験、団体や地域の活動紹介をする「展示部門」、学校・施設を訪問する「交流活動」、そして私が参加した「舞台公演」です。日本の伝統文化に関心の高い方々が、興味を持って会場を訪れていたことと思いますが、予想していた通り、現代の日本のサブカルチャーに影響された若者たちが、コスプレで会場を訪れる様子も見受けられました。又、振袖にブーツといった出で立ちで、舞台公演を観に来ている若い女性グループも。寿司と同じように、海外に日本文化が伝わると、その国ならではのアレンジが加わるもののようです。

さて、舞台公演はヘルシンキ中心部のエスプラナーディ公園に程近い、歴史ある約700席のコンサート会場、Savoy teattri(サヴォイシアター)で5日間にわたり行われ、私は最終日の26日に出演いたしました。連日盛況で、私の出演日も平日にかかわらず、満員御礼。大変やりがいのある舞台でした。フィンランディア賛歌を皮切りに、シベリウス、クーラ、マデトヤなどのフィンランド歌曲、そして日本の叙情歌を、全部で8曲を演奏。ピアノ伴奏はフィンランド在住25年、シベリウスアカデミーで講師を勤めておられる、市橋直子さんに弾いていただきました。

公演では一晩に4団体が出演しますが、音楽だけではなく他の様々なジャンルのパフォーマンスもあり、見た目にも華やかです。そのため、今回の私の舞台では、少し特別な演出を前もって検討致しました。当初は現代書家の方と、墨と水でシベリウスの持つ世界観を表現することができないかと考えて取り組み始めましたが、うまくまとまらず、ようやく知人の紹介で、サンドアートを手がける船本恵太さんに出会うことができ、ご協力を乞うこととなりました。

そして、船本さんの率いる、サンドアートパフォーマンスグループ 「SILT」のメンバーの一員、エリザベスさんが、ヘルシンキ大聖堂とシベリウスの肖像画による作品を、製作してくださいました。よく砂のみでここまで、という描写力で、大変な力作。何回も練習し、絵を一枚作り上げるまでには一時間半以上もかかります。その作品の映像を、編集で短くし、コンサート冒頭のフィンランディア賛歌とともに大きなスクリーンにて上映しました。生の歌声と、砂の絵画は、同じ有機的な手ざわりで、互いに馴染みやすく、そのシンプルな色合いに、聴衆の皆様も自然に引き込まれていくような感覚があったかと思います。スクリーンいっぱいのサンドアート画像には迫力があり、歌と相まって新鮮な驚きを生み出していたようです。フィンランド国民の皆様の前で、第二の国歌と呼ばれる、象徴的なフィンランディア賛歌を披露することは勇気が要り、緊張もしますが、このような形での演奏はフィンランド人の皆様にも受け入れていただけたのではないでしょうか。

もう一曲、滝廉太郎「花」では、富士、歌舞伎浮世絵、桜が登場する、所謂ジャパニーズな映像とともに演奏しました。こちらは、船本さんの以前の作品「日本」を編集したものです。外国で日本の歌を歌う際、言葉の意味が伝わらないことを考えますと、このような演出も大きな助けになります。日本での外国歌曲の演奏でも同様のことが言えますが、なるべく音楽だけで築かれるイマジネーションや表現力の幅を大切にしつつ、このような新しい試みにもチャレンジしていきたいと思います。
公演の模様は、一部YouTubeに載せておりますので、ぜひご覧いただけましたら幸いです。
前川朋子のYouTubeチャンネル www.youtube.com/tokioluna

シベリウスのみならず、その後につづくフィンランドの作曲家の作品には、知られざる歌曲の名曲があります。そのひとつ、マデトヤの「ゲイシャ」を最後に演奏しました。この曲はフィンランドの歌曲界でもあまり有名ではないそうですが、オネルヴァによる詞にマデトヤがつけた曲は、芸者の艶やかさ、主人公の熱情のムードをよく表しています。日本人ゆえに理解しやすいところかもしれません。芸者というよりは花魁のようなイメージを受け、又フランスのジャポニズムを彷彿とするような印象の歌曲です。マリア・ホロパイネン先生にも、この曲は私の声に合っているとのお言葉をいただいたので、大切なレパートリーにしたいと思っております。

以上、ヘルシンキで開催された、ジャパンウィークでの演奏を振り返り、詳細の報告をさせていただきました。
今回のイベントでは、現地の日本人、フィンランド人ボランティアの方々も活躍してくださり、国際親善協会からの舞台スタッフの皆様はじめ、いろんな方の支えがある中で、良い公演ができましたことを、心から有り難く思っております。ピアニスト市橋直子さんも、ヘルシンキ在住の日本人として、このイベントに参加できたことをとても喜んでくださいました。ご協力に感謝申し上げます。今回得た経験を、また今後の演奏活動に活かしてまいりたいと思います。 

プロフィール
前川朋子
ソプラノ歌手
国立音楽大学音楽部声楽科卒業。
国際ロータリー財団奨学生としてドイツ留学。ミラノにて研鑽。
東京室内歌劇場公演では、オペラ「ゲノフェーファ」のタイトルロール その他に出演。
東京二期会では2012年二期会WEEKにて「白夜の国の歌曲たち~森の精霊とともに」をプロデュース及び出演。
その後もリサイタルやコンサートにてフィンランドの歌曲作品を積極的に取り上げ、紹介している。