日本・フィンランド新音楽協会の発足、 及びオープニングコンサートを振り返って
福士恭子
2010年夏、作曲家 一柳慧氏と当時のフィンランド大使館文化参事官でチェリストのセッポ・キマネン氏により、日本・フィンランド新音楽協会が発案された。
折しも私自身フィンランド、ラハティ市での7年に渡る滞在から帰国したばかり、その際にキマネン氏とお話したことがきっかけで、このプロジェクトに関わることになった。フィンランド人の高い自主性と独立心にふれる度に、そこから彼らが新しく生み出すアイデアと行動力に圧倒されてきたが、一柳氏の熱意にエネルギーを得て更に、協会発足に向けて勢いが増したといえるだろう。
理事長に一柳氏、キマネン氏(フィンランド側)、理事に辻井喬氏、池辺晋一郎氏、野平一郎氏、家村佳代子氏をお迎えし、まずは理事長の多方面に及ぶ幅広い人脈を元に協会の基盤が作られた。そして2011年1月18日に迎えた在日フィンランド大使館での協会発足のオープニングコンサート。フィンランド大使ご夫妻を始め、大使館の皆様の多大なるご協力を得て、実現の運びとなった。
当日のコンサートはフィンランド大使館文化参事官ミッコ・コイヴマー氏の司会で、ヤリ・グスタフソン駐日大使によるオープニング・スピーチで幕が開けた。その後、一柳理事長が協会発足の挨拶を述べ、フィンランドの作曲家エイノユハニ・ラウタヴァーラ氏から届いた祝辞も紹介された。ラウタヴァーラ氏は一柳氏と共に、ニューヨークで学ばれた学友でもある。
プログラム最初は、フィンランドの作曲家ペール・ヘンドリク・ノルドグレン(1944-2008)「小泉八雲の怪談によるバラード」より「雪女」(ピアノ: 福士恭子 以下、敬称略)。日本での留学経験もあるノルドグレンによって生み出される神秘と、不可思議な世界が映し出される曲である。
プログラム2番目はフィンランドと日本で活躍して来られた新井淑子氏(バイオリン)、セッポ・キマネン氏(チェロ)による演奏で、ラウタヴァーラ(1928-)作曲の「Con spirito di Kuhmo for violin and cello」。この曲はフィンランドのクフモ音楽祭を創設したキマネン氏の50歳の誕生日に捧げられている。次に演奏されたのは、本会発足のために作曲された一柳慧(1933-)「Duo Interchange for violin and cello」。今回のオープニングコンサートが世界初演である。演奏家のお二人を熟知した作曲家による作品を、捧げられた御本人たち自らの演奏に臨める貴重なひとときとなった。
3番目には、現在フィンランド、ラハティ市ラハティ交響楽団のコンポーザー・イン・レジデンスであるカレヴィ・アホ(1949-)のフルート、チェロ、ピアノの為の「5つのバガテル」より4曲、Appasionato、Prestissimo、Grave、Danza(Molto allegro)が演奏された(フルート:上原由李、チェロ:セッポ・キマネン、ピアノ:福士恭子)。この作品は2001年ユヴェナリア室内楽コンクール(フィンランド、エスポ-市)の課題となった作品で、2000年に作曲されている。
4番目に、正倉院復元楽器である竪琴、箜篌(くご)による一柳慧「時の佇いII」(箜篌:佐々木冬彦)。箜篌は、破損した残欠から研究が重ねられ、およそ1200年の時を経て、復元された楽器である。失われた東洋の音色が、佐々木氏の手により、悠久の時を超えて優美に会場に響きわたった。
5番目は、43年間にわたり、その音楽活動を通してフィンランドと日本の橋渡しに努めて来られた舘野泉氏による演奏で、エルンスト・フォン・ドホナーニ (1878-1951)「左手のためのエチュード」、セリム・パルムグレン (1878-1951)「Intermezzo for the Left hand」、カッチーニ-吉松隆(1953-)「アヴェ・マリア」。舘野氏の叙情豊かな世界が会場に拡がった。
そしてプログラム最後は池辺晋一郎 (1943-)作曲の「ストラータVIII(2010)(バイオリン:亀井庸州、チェロ:多井智紀)。技巧的且つ集中度の高い演奏に会場全体が引き込まれ、興奮のうちに幕を閉じた。途中、チェロの弦が切れるハプニングもあったが、多井氏は物ともせずに、迫力のある演奏で乗り切った。
コンサート終了後は大使館主催によるレセプションが催され、当日の来場者が交流を深める場となった。
今後は協会発足の趣旨を踏まえて、日本・フィンランド両国で活動する作曲家、作品を紹介する発展性のある場を提供していくこと、また将来的には国を限らず、多方面に及ぶプログラムを組んでいくことを目的とし、他芸術との融合も考えた幅広い活動を目指して行きたいと考えている。
日本・フィンランド新音楽協会 オープニングコンサート
2011年1月18日(火)19:00
-プログラム-
ペール・ヘンリック・ノルドグレン(1944-2008):小泉八雲の怪談によるバラードより 雪女(1976)
ピアノ:福士恭子
エイノユハニ・ラウタヴァーラ (1928-):Con spirito di Kuhmo for violin and cello (1999)
一柳慧 (1933-):Duo Interchange for violin and cello (2010) <世界初演>
バイオリン:新井淑子 チェロ:セッポ・キマネン
カレヴィ・アホ (1949-):5つのバガテルより (2000) Appasionato Prestissimo Grave Danza(Molto allegro)
フルート:上原由李 チェロ:セッポ・キマネン ピアノ:福士恭子
一柳慧:時の佇いII (1988)
箜篌:佐々木冬彦
エルンスト・フォン・ドホナーニ (1878-1951):左手のためのエチュード (1913)
セリム・パルムグレン (1878-1951):Intermezzo for the Left hand (1898)
カッチーニ-吉松隆 (1953-) : アヴェ・マリア
ピアノ:舘野泉
池辺 晋一郎 (1943-) :ストラータVIII (2010)
バイオリン:亀井庸州 チェロ: 多井智紀
福士恭子 (ピアニスト)
ハンガリー国立リスト音楽院、スイスバーゼル音楽院に留学。1997年、マリア・カナルス国際コンクール(スペイン)にてディプロマ受賞、1999年フォッジャ国際コンクール(イタリア)にて第3位。2004年よりフィンランドラハティ市交響楽団メンバーとヴェッラモ・ピアノトリオを結成。2008年、塩釜市より「平成20年度塩竈市教育功績者表彰感謝状授与。
2003年~2010年、ラハティ市(フィンランド)ラハティ総合大学(Lahti University of Applied Sciences)音楽学部ピアノ科、ラハティ市コンセルバトリー、ミュージック・インスティトゥート、非常勤講師。